バランス麻酔
バランス麻酔 (balanced anesthesia) とは、麻酔の4要素である手術中の意識消失、無痛、筋弛緩、生体反射の除去を、複数の薬剤や麻酔法を組み合わせることで、コントロールし、手術中のストレスを最小限にとどめるような工夫をした麻酔のことを言います。
1900年代前半には、単一の吸入麻酔で、麻酔の条件を満たそうとしていた時代もありました。麻酔薬単独でも麻酔は不可能ではありませんが、充分に麻酔が深くなるまでに時間がかかったり、吸入量が増して副作用が増えたりすることがあるために、1900年代の後半になり、単一の麻酔薬では限界があると考えられるようになりました。麻酔科を専攻する医師が無痛、睡眠、筋弛緩、有害反射の除去を別々の薬物で達成し、最適な無痛の麻酔環境を作る努力がなされるようになり、種々のバランス麻酔が形成されました。
当院は、バランス麻酔を研究し、最適な麻酔環境を構築し、美容外科の無痛麻酔に応用しています。バランス麻酔をうまく使いこなすには、麻酔薬に対する豊富な知識や経験が必要です。
全身麻酔薬 general anesthetic
一般に、麻酔薬は脳を全体的に抑制します。(ただしケタミンは、例外です)。
最初、自然の睡眠に近い眠りから始まり、すぐに深い昏睡に至る麻酔薬のことを言います。全身麻酔には、吸入麻酔と静脈麻酔に分けられます。ガス麻酔と称して、笑気による麻酔を無痛麻酔と宣伝しているクリニックがあるようですが、笑気は元来、全身麻酔薬と併用して用いる補助薬であり、笑気のみで無痛麻酔効果は得られません。
吸入麻酔薬 Inhaled anesthetics, inhalation anesthesia
吸入麻酔薬は、呼吸を介して肺から体内に入り、麻酔効果をもたらす麻酔薬です。
第二次大戦後にフッ素や塩素、臭素といったハロゲン元素を炭素に組み込んだハロタンやメトキシフルラン、エンフルラン、セボフルラランといった麻酔薬が登場しました。現在はセボフルランが主に使われています。 セボフルランは液体であり、専用の気化器を使い、吸入させます。
セボフルラン、セボフルレン sevoflurane(セボフレン®)
常温液体のハロゲン化吸入麻酔薬。無色で芳香臭があり、極めて安定です。
セボフレンの構造式にはフッ素7原子を含むことから、sevenとfluorineを結んで、セボフレンと命名されました。
血液/ガス分配係数が吸入麻酔薬の中で最も低いため、導入・覚醒が速いことが特徴です。
気道刺激性が低く、心筋カテコラミン感受性亢進作用に関しては吸入麻酔薬の中で最も低いことが特徴です。さらに調節性がよいことから、現在、日本で最もよく使用されている吸入麻酔薬です。 セボフルランでの術中覚醒は非常に少ないことが知られています。
セボフルランは視床や小脳の抑制が強く、エピソード記憶の回避という点で有利な海馬シナプスか蘇生の抑制作用を持ち、低用量で、情動記憶に関与する扁桃体を抑制します 脳内GABA濃度に作用されにくい鎮静・健忘作用を有するので、術中覚醒予防効果があります。
静脈麻酔薬 intravenous anesthesia
静脈内に投与して、鎮痛・鎮静効果を得る麻酔薬を静脈麻酔薬と言います。現在は、吸入麻酔の導入、吸入麻酔維持の補助、局所麻酔の補助、小手術時・検査時の単独使用など、主に、吸入麻酔薬を補う目的で用いられています。吸入麻酔薬に比べ、調節性に乏しいことが特徴ですが、最近では 麻酔輸液ポンプの投与速度を調節し、簡便で確実な静脈麻酔が可能となり、静脈麻酔単独でも、無痛効果が得られるようになりました。
チオペンタール(ラボナール®)、チアミラール(イソゾール®、チトゾール®)
主に静脈麻酔薬として利用されるバルビツール系静脈麻酔薬です。 鎮痛作用はありません。
脳圧を下げる効果があるので脳外科で多用されます( 脳の酸素消費量が減少するので蘇生時の脳保護に用いることもあります。)。 小児にも成人にも使用可能である。 麻酔作用:脂質溶解性が高いため容易に中枢神経系に到達して麻酔効果を発揮するが、速やかに再分布して覚醒します。 抗痙攣作があります。
ケタミン(ケタラール®)
非バルビツレート系静脈麻酔薬、フェンサイクリジン(PCP)系全身麻酔薬に分類されます
。大脳皮質は徐波となりますが、大脳辺縁系は覚醒波を示すため、解離性麻酔薬 dissociative anestheticと呼ばれます。
大脳皮質・視床などを抑制し鎮痛作用を示すとともに、大脳辺縁系を賦活し、向精神作用を現します。
呼吸抑制が低いため、自発呼吸が可能という利点があります。カテコールアミン遊離作用があるため、交感神経を刺激し、気管支拡張作用・昇圧作用を示すので、気管支喘息を持つ患者にも比較的安全に使用できます。
プロポフォール(ディプリバン®、プロポフォールマルイシ®)
プロポフォールは、目的とする鎮静レベル(Ramsayスケール-3)に速やかに到達し、維持、調節が容易な鎮静薬として発売されました。
肝臓での代謝が速く、麻酔の導入にも維持にも好んで用いられため、現在最も頻用される全身麻酔薬の一つです。気管支拡張作用をもち、蓄積性が少ないことも利点です。
プロポフォールは脳血流量を減少させ、脳圧を上昇させないことから、脳外科手術の麻酔において広く使用されています。 麻酔導入だけでなく、完全静脈麻酔にも使用されています。 鎮痛効果がないので、フェンタニルなどの麻薬鎮痛薬や硬膜外麻酔などの局所麻酔と併用して、完全静脈麻酔が可能です。血管痛がプロプフォールの欠点であったが2003年から使用できるようになったプロポフォール製剤(Propofol MCT/LCT1%)は中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)と LCT を 1:1 で混合されたもので、血管痛の原因とされる水相中のプロポフォール分子の量をかなり減少したために、血管痛が軽減しました。
当院は本格的美容外科で、他院で扱っていないような難手術にも対応していますが、そのほとんどを入院なしで行っています。わずかな例外以外は、その日のうちにお帰りいただきます。完全無痛麻酔を行った方でもほとんどはその日にお帰りいただきます。
さほど痛みに弱いタイプではないのですが、手術するなら無痛麻酔でお願いしようと思っています。先生から無痛麻酔でしたほうが良いか否か、アドバイスしてもらうことは可能ですか。
その方の、痛みに対する反応は、人ぞれぞれです。ですからどれくらい痛みに弱いかをお聞きして、無痛麻酔に対するアドバイスを行っています。比較的痛みに強い方でも同様で、希望の手術と、その方の痛みに対する反応をよくお聞きして麻酔を選択させていただきます。カウンセリングの時に遠慮なく質問してください。
完全無痛麻酔は、いろいろな方法があり、手術していることが、なんとなくわかる方法から、全く何をしているのかわからない方法まで選択することができます。希望手術の内容や痛みに弱い程度を良くお聞きして、どのような麻酔になるかを決定させていただきます。