自己免疫疾患に罹患すると薄毛が進行することがあり、注意が必要です。免疫は、身体にとって有害な物質を攻撃して排除し、病気が悪化するのを防ぐ働きで、健康を維持するために重要な機能です。ウイルス等の病原体を排除するための免疫システムが、誤って自分の体の組織を攻撃することで様々な自己免疫疾患が発症します。免疫系が誤って自分の皮膚や毛髪を攻撃すると、脱毛が起こります。
円形脱毛症は類円形の脱毛斑を生じる脱毛症で、毛包組織に対する自己免疫疾患と考えられています。免疫は体に入ってきた有害な物質を認識し、攻撃し排除しますが、免疫機能になんらかの異常が起きると、無害な自分自身の細胞や組織を異物だと勘違いして攻撃してしまいます。これにより、毛根を異物だと見なして攻撃し、毛根の細胞がダメージを受け、毛髪が抜けてしまいます。脱毛斑は単発の場合も複数の場合もあります。脱毛が頭部の毛髪のみに生じることも、全身の毛に及ぶことも有ります。
全身性エリテマトーデスは、自己免疫疾患の一つです。体内で作られる抗体または免疫細胞が自身の組織を攻撃します。皮膚の症状が認められ、有毛部位の皮膚から毛が抜けることがあります。毛包が完全に破壊されてしまうと、その部位の脱毛は治りにくいので、早めの治療が必要です。
バセドウ病は、体内で甲状腺刺激ホルモンの受容体に対する抗体が作られ、甲状腺が刺激され続け、甲状腺ホルモンが過剰に産生、分泌されるために起こる疾患です。バセドウ病になりやすい体質を持っている人が、何らかのウイルス感染や強いストレスや妊娠、出産などをきっかけとして起こるのではないかと考えられています。甲状腺ホルモンが過剰分泌されることによって新陳代謝に異常をきたします。甲状腺が持続的に刺激されることにより、甲状腺は腫大して、甲状腺から多量の甲状腺ホルモンが分泌され、体にとって過剰な負担が続くことになります。ホルモン、免疫、自律神経のネットワークが調整機能を失い、抜け毛や薄毛、脱毛症が発症します。
橋本病とは甲状腺に対する自己抗体が産生され、慢性的な甲状腺の炎症が生じ、甲状腺機能が低下し、甲状腺の腫大や萎縮を生じる疾患です。甲状腺ホルモンが、低下すると活動性が鈍く、老けたようになります。急に体重が減ってきた、疲れやすい、身体がむくむ、動悸、息切れ、物が二重に見える、首が腫れてきた、といった様々な症状が現れます。また甲状腺ホルモン低下症状として、抜け毛や薄毛、脱毛症が発症します。
自己免疫疾患が原因で脱毛、薄毛が進行している場合、原疾患の治療が重要になります。原疾患の状態が落ち着いているにもかかわらず、脱毛や薄毛が進行する場合には、薄毛治療を考えることが重要です。
22歳、女性。多発性円形脱毛症、ハーグ療法
症例経過:多発性円形脱毛症が拡大してきた症例です。最初は小さい円形脱毛が1つだけだったので、それほど気にしていませんでしたが、少しずつ脱毛斑が大きくなって、頭頂部にも脱毛斑が出現しました。髪を洗うたびに異常なほど髪が抜けるため、仙台中央クリニックに相談いただきました。後頭部に拳大の脱毛斑があり、更に頭頂部にも鶏卵大の脱毛斑を認めました。抜け毛が進行していることから、即日にハーグ療法を開始しました。脱毛部に発毛が認められ、脱毛斑は消失しました。
症例解説:多発性円形脱毛症は脱毛斑が多発的に生じる疾患です。自己免疫疾患の関与が指摘されています。目立つ部位に脱毛斑が現れると、髪の毛で隠す事が出来ず、心理的なダメージを負います。これまで自己免疫疾患に対する薄毛治療は難渋してきましたが、近年ハーグ療法が開発され、効果が注目されています。毛が抜け続けたとしても毛母細胞は残っているため、成長因子を加えて細胞を刺激することで、高い確率で発毛が認められます。単発型の円形脱毛症と比べて多発性円形脱毛症の発毛には期間を要すことがあり、根気よく治療をすることが大切です。ハーグ療法は、注射する際に痛みを伴うリスクがあります。